Kurume・Tosu Internet Conference

「The Journal of Internet」 Volume4,2000 || H O M E || || 3 || 4 || 5 || 6 || 7 || 8 || 9 || 10 || 11 || 12 || 13 || 14 || 15

 

インターネット時代の情報処理教育・雑感

久留米工業高等専門学校 電子計算機室長
松本 健一
Kenichi Matsumoto
IT革命などという、かなり身構えねばならない言葉も飛び出す世の中になりました。時代の最先端を行く奥行き、幅ともに膨大な広がりをもつ「情報」を、教育の場でどのように取り扱えばよいのか、今大いに悩んでいるという話をご披露したいと筆を取った次第です。諸兄のご高説、ご教示を戴ければという下心もあります。
久留米高専には、情報工学科というような情報科学を専攻とする学科はもたず、制御情報工学科という、きわめて機械系よりのメカトロ学科とでもいうべき学科がありますが、ここでとりあげる情報処理教育とは、久留米高専全学科に共通する基礎科目としての「情報処理」について言及するもので、しかも久留米高専固有の、一般性のない話であることをお断りしておきます。 久留米高専における情報処理に関連する教育を始めたのは、30年ほど前の1972年のことです。その前年にFACOM230-25という主メモリー 24KBの電子計算機が設置され、電子計算機概論・演習という科目名で情報処理がカリキュラム上に登場しました。
当時の高専や大学での計算機の利用は、計算機センターに出向いて、もっぱら数値計算や科学技術計算を目的とするものでした。したがって「情報処理」は、フォートランの習得が目的となり、文法学習とプログラム入力のためのパンチ作業でした。高学年(4年、5年生)のみを対象にし、習得する単位数は3〜4単位でした。
このような状況が13年間続き、1985年に計算機の更新が認められ、主メモリー 7MBのミニコンをホスト機とし、パソコンを端末機とするTSS方式のシステムの導入が実現しました。このシステムでは、使用する言語が、フォートランの他にベーシックやパスカルなど多様化したため、学科の目的に応じて、使い分けができるようになりました。
しかし学習の内容は基本的には変らず、プログラミングが主でした。ついでながら、この頃までは企業側は、情報処理にかんする知識・能力について、高専にはまったく期待してなかったようです。
一方、コンピュータ世界はハードウェアでもソフトウェアでもその展開が激しくなり、パソコンによる分散処理を行う、いわゆるダウンサイジングやネットワーク化の傾向も強まってきました。1994年に次の更新を行ったときには、WSをサーバー機とし、パソコン49台をネットワークで接続し、ようやく1人1台の環境が整いました。ソフトウェアがさらに多様化し、各種の言語の他にワープロや表計算が可能になり、この時点で情報処理教育の目的が少しぼやけるようになりました。つまり技術計算を目的とするプログラム教育の他にコンピュータリテラシィの必要性が高まってきたからです。
本校では入学してきた1年生に、まずワープロと表計算をつかって、コンピュータに慣れてもらい、4年生位でプログラム言語を習得するというカリキュラムに構成に改正しました。情報処理のカリキュラムは基本的にリテラシィ教育と専門学科の応用技術ということにしました。
 

1998年に再び教育用システムを更新しました。パソコンの性能も大幅にアップしたうえ、OSはWindows NTにして、学生はインターネットも自由に利用できるようにしました。世界中の情報を、自分で取り込み活用しようという趣旨で、正課の時間外の自発的利用を推進してきました。
ところで現在実施している情報処理関連のカリキュラムの例を制御情報工学科について示しますと次の通りです。
1年 情報処理(コンピュータリテラシィ、C言語入門) 2単位
2年 情報処理(C言語、アルゴリズム、パソコンOS)2単位
3年 情報処理応用(アーキテクチャ、インターフェース他)2単位
4年 情報処理応用(数値計算、データ処理、方程式処理) 2単位
5年 電子計算機 1単位、他4科目 4単位
このうち、3および5年の科目は学科独自の専門教科ですが、1、2および4年の情報処理は他学科もほぼ同じ内容のものです。となると、この30年間、情報処理教育は基本的には何も変わっていないのかなぁーと気づいて、実は愕然としているところです。学校での、ことに基礎科目となると、この程度の内容は将来企業に就職したときに必要であろう、という認識のうえに構成しているカリキュラムでしたが、はたしてそれでよいのだろうかという、あらたな疑問が湧いてきたのです。
では学校における情報処理教育はどうあるべきなのでしょうか。実は本校制御情報工学科の卒業生の過去5年間の就職先のうち、プログラミングの技能を使うであろう分野に就職していった学生は実に116名中、20名以下にすぎないようです。他の人は一生、プログラミングとは縁がないはずです。それなのに、プログラム言語教育が必要なのであろうか。
ところで現在本校に入学してくる(中学校から)学生は、中学校でのパソコン体験が千差万別で、つまりレベルがまちまちです。それどころか今では小学校からパソコンを始めています。私の講義に対してレポートはメールで、という指示に対して1年生でも正確にメールを送ってくれるし、中にはケイタイ電話からの送信もあります。つまり学校以外で、最新の技能を身につけているようです。
このような場合、教育の到達目標の設定が可能だろうか、いやどのような目標を設定すればよいのだろうか。なにしろ30年足らずの間に、KB(キロバイト) からMB(メガバイト)へ、そしてGB(ギガバイト)の世界です。
学生のインターネットの利用については情報の収集も技術の内と考えて、先に述べたように制限事項なしに利用を奨励しています。しかし残念なことに最近、学校に外部から、本来の使用目的に反する、やや反社会的な行為にたいする苦情が来ました。このような事態に対しては、情報処理教育のなかで、情報の的確な選択、個人情報の保護、人権、倫理等々のシステマティックな教育が必要不可欠になってきました。
IT時代と声高になってきました。高専における情報処理教育、特に情報系でない学科における情報処理とはどうあるべきか、いまや転機を迎えようとしています。


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